kagamihogeの日記

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撤退の研究―時機を得た戦略の転換

本書は、題名にあるとおり撤退をテーマに、軍事編と企業編とに分けて、ある戦史や企業経営の歴史でどのような決定がなされたのか・その背景にはどんな事情があったのか、などを分析・議論している。俺は、各節で取り上げられている戦史や企業経営の歴史について専門家ではないので、著者たちによる論考にどの程度の妥当性があるのか正当な評価はできない。ただし、俺の感覚的には、「撤退」というキーワードからの検証内容はよくまとまっているのではないか、と思う。

本書の主題は「撤退」となっているが、むしろその本懐は副題の「転換」にある。俺には撤退というとどうにも負のイメージがあったので、本書で取り上げている事例は、撤退というキーワードには似つかわしくないのでは、と思うものもいくつかあった。ただ、読後は事例のチョイスに納得している。

ものすごく大雑把に言うと、撤退したリソースは別の分野に振り分ける必要がある。このため、撤退と転換は表裏一体の関係にある*1、ということを本書から学べたと思う。

しかし、本書はその撤退などの転換を図ることがどれだけ難しいかも示している。戦史の研究は、時間をたっぷりとり、正確な数値データを集めた上で分析を行うことが出来る。このため、失敗の歴史―特に撤退など―から学ぼうとするとき「だからあの時こうしていればよかったのだ」という態度になりがちだが、本書はそうした態度は控えるべきだと指摘している。なぜなら、誰かが何かを決断しなければならなかったとき、情報収集・検証するリソースは限られているから*2。ケーススタディはケーススタディ、と捉えることが重要なのだろう。まぁだからこそ、仮想戦記モノが面白いんだけどw

ソフトウェア開発においても、本書で行われているような振り返りは重要なのではないか、と思った。デスマーチ後に「嫌な案件だったね*3」で酒飲んで酔っ払って忘れるのではなく、ドキュメントとしてあの時何が起きたのかを残して研究する、ってのは世の中でどのくらい行われているのだろうか。たとえば、大規模なものだと のようなこと。

そりゃまぁ、そんなことやってる時間どこにあんだよ、手間隙かけたところでどんだけ価値あんだよ、誰が読むんだよ、めんどくせぇよ、って俺自身も思うからやらんのだろうけどw

少し前のデスマで俺が感じたのは、身近なプロジェクトがいちばん身近な教科書、ではないだろうか、と。普段の作業の中で、イラッ☆としたことを Twitter みたいな短文でいいから残しておき、後でまとめるだけでも興味深い資料になりそうな気がするんだよね。手間隙かからない形で資料を残すツールとして、ああいうミニ blog は中々有用なのかもしれない。それと、各種構成管理ツールでログが残せてたらもっと高度な研究が出来るんじゃなかろうか、ともなんとなく思った。

撤退の研究―時機を得た戦略の転換

撤退の研究―時機を得た戦略の転換

*1:損害・被害を最小限に抑えるための撤退もあるけど、これにしても再起を出来るだけ素早く図る、という転換に繋げるのが肝要、と本書は言っている

*2:本書曰く「戦場の実相は、錯誤の連続である」だそうだ。

*3:「バグがまだ一個見つかってないんだろう?」とか続けると喉かきむしって死にそうだ