kagamihogeの日記

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歴史の愉しみ方 - 忍者・合戦・幕末史に学ぶ (中公新書)

歴史を専門に扱っている学者なり研究者なりが、成人向けに新書サイズでお手軽に歴史をたのしめるための本を出していることは良くある。ただ、事実に忠実になろうとする余りか堅っ苦しい文体に終始して息が詰まりそうなのとか、無知蒙昧な貴様らに歴史の重みを知らしめてくれるわとでも言いたげな難解極まりないものも多い。それはそれで俺のようなパンピー層向けでなく学術的意味はあるのだろうけど。本書は、著者の優れた古文書作成スキルからの引用と、適度に気の抜けたどこか愛嬌を伺わせるがしかし日本史に対する深い愛による文章によって、歴史の愉しみ方をゆるふわに知ることが出来る。

この本では、日本の歴史の中で先人たちが残してきた文書を兎に角大量に紹介する。ただ、いたずらに今となっては読みにくい古い日本語をそのまま載せるのではなく、意訳したものに留めている。この本もその他の歴史本のレイに限らず、最近の若者は本物の歴史を読まなくなった、歴史考証のおかしいドラマが増えた、という嘆き節から始まる。が、嘆いていてもしょーもないので、多少の正確性は無視してまずはオモシロ案件を紹介することで、歴史を自分の力で知っていくことの楽しさを説いているように見える。本書の中で、著者は古い文書を捜し求めるのに時に大変な労力を注いでいる描写がしばしば見られ、傍目狂気とも思える行動を楽しげに描いてしまっている。中々エンターテイメント性の高い学者さんである。

ただ、第4章「震災の歴史に学ぶ」だけはニュアンスが異なり、やや悲観的な文章が目立つ。筆者は東日本大震災をきっかけとして、歴史学者として震災に何が出来るのか、と自問するようになったという。その結果、日本で過去に起きた大震災を研究し、未来に生かす方策は何かを考えるようになった。本書によれば、日本に大地震がおおよそ100年〜150年に一度、500年に一度超大規模の地震が来るのは、地質調査や江戸以降の文献から分かってきてはいるらしい。細かいことは本書に譲るが、人間の伝統というものは我々が考えているほどには永続的ではないが、自然というのはもっと伝統的というか周期的なものだ、という警句は深いものがある。

そして最後はまたうってかわって戦国時代あたりのお話になるのだが、最後の章の関が原見物作法がブッ飛んでいるのでこれを是非紹介しておきたい。これによると、日本史マニア的には新幹線は歴史の流れを感じるための絶好の機会なのだという。東京を経って新大阪、逆に新大阪から東京へ向うときの心構えが説かれている。

山崎合戦の跡をみる心づもりをする。本能寺の変後、秀吉が明智光秀を破った古戦場。サントリーの山崎蒸留所がみえてきたらその裏山が天王山。光成の主君、秀吉公の宝寺城があったところだ。秀吉公に可愛がってもらった懐かしさを思い出す。「山崎は水がいい。秀吉様はここの茶室待庵で茶を楽しまれた。いまはウィスキーの工場」などと考える。

歴史の愉しみ方 - 忍者・合戦・幕末史に学ぶ (中公新書) p.197 第5章 戦国の声を聞く 関ヶ原見物作法 2 光成篇

最後のカッコ付きの文句は、過去の歴史に身を委ねるようなロマンティストと現代の建造物も忘れることはしないリアリストが同居する素晴らしい一文でありましょう。

歴史の愉しみ方 - 忍者・合戦・幕末史に学ぶ (中公新書)

歴史の愉しみ方 - 忍者・合戦・幕末史に学ぶ (中公新書)