kagamihogeの日記

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テルマエ・ロマエ

ここの日記ではあまりマンガの感想を書くことはない。書いたときは何がしか強烈な衝動に心動かされてのことが多いのだが、本書からも似たような熱いパトスを受け取ってしまった。よって、謎の啓蒙思想に突き動かされて感想を書く。といっても、色んなメディアに取り上げられて既に時の一冊になったのでイマサラ俺が布教する余地は無いのだけども。普段マンガ読まない日本人にこそ是非ということで。

とりあえずは一巻の表紙をまず眺めたい。

テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX)

テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX)

何やら精悍な顔と体つきのギリシャ風っぽい彫刻像が目に飛び込んでくる。しかし良く見るとおかしい。鼻筋くっきり彫りの深く明らかに異国の男子であることは一目瞭然。にもかかわらず、真っ赤な手ぬぐいを肩にひっさげ、小脇には桶。最近の若い人には伝わりにくいかもしれないが、どんなに贔屓目に見てもコレは銭湯スタイル。ギリシャっぽいのに和風とはこれいかに……と一巻を表紙買いしたのは良い思い出。

では具体的にどんなマンガかというと、古代ローマの浴場建設技師である主人公が風呂でコケると何故か日本の風呂にタイムスリップするというもの。一巻の第一話の流れはこうである。浴場文化の盛んな古代ローマ時代、浴場建設技師の主人公ルシウスは新しい浴場設計のアイデアが思いつかずスランプに陥る。そこで何か目新しいモノは無いかと風呂に浸かるとアラ不思議、溺れかけたかと思いきや何故かそこは異国(日本)の銭湯。ルシウスはそこで異様に洗練されまくった日本の風呂文化にショックを受けるも、絶大なインスピレーションを受ける。頭上に電球ピコーン的な。再び目を覚ますとそこはローマ、ルシウスは劇的な体験に背中を押されるがまま斬新な浴場設計を完成させ、見事な手腕を褒め称えられる。

以降、一話ごとにこの構図が繰り返される。ルシウス悩んで風呂でコケ、日本の風呂でルシウスに電撃走り、ローマに戻り大活躍の大喝采。このテンプレートが示されてるおかげで安心して物語世界に没入できる。そこで一話完結型かと思いきや、シリーズ通してルシウスの考え方や人間関係が少しずつ流動していく様も描かれている。一つの話でドリフ的お約束展開により風呂とは何なのかを掘り下げつつ、ルシウスの波乱万丈な人生模様も展開させていく仕組みはお見事である。

本書で何よりのキモはルシウスの表情だろう。いかにも西洋風な大盛りツユダク油マシマシな濃い顔立ちのルシウスが、日本の風呂文化に一喜一憂する姿が大変にユニークなのである。本書で出てくる様々な日本の風呂文化は、我々日本人にとってはおおよそ馴染み深いものである。現代日本を生きる人からすれば極当たり前のことに、ルシウスが感銘を受けたり、文化圏が異なるが故の奇行をしでかしたり、技術格差に落胆したり、浴場技師として奮起したりと大忙し。端的に言って主人公の七転八倒は滑稽なのだが、そこには何故か不思議とユーモラスさが漂うのみで、とても笑える。

つまりは、面白いってことです。

ただ一つ危惧されていたのは、一巻が刊行された頃は皆おおよそ似たような感想を抱いていたようなのだが、コレ一発ネタで終わりかねないんじゃ? というものである。風呂にスポットライトを当てたのは素晴らしい着眼点ではある。しかし焦点を絞りすぎてすぐにネタ切れになるのでは……と。しかしコレは二巻が出たことで読者の不安は払拭されたのではなかろうか。刊行ペースこそ年 2,3 冊が限度ではあろうが、続きはゆっくり待てばよかろう、と。それこそ風呂でノンビリするがごとく。

最近マンガでクスリとしてないんですよね、という日本人には確信を持ってオススメできる二冊です。

テルマエ・ロマエ II (ビームコミックス)

テルマエ・ロマエ II (ビームコミックス)