kagamihogeの日記

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コの業界の経営者は失敗を語ってくれ

いっつも思うんだが、コの業界のエライひとたちは開発現場がクソみたいな状況になってるの知ってるクセに何で知らん振りするんだろうね? ヒドイものはヒドイ、ってまず認めるのって、経営学的には基礎だと思うんだけど…… まずトップの人間がコの業界がもうどーしょーもない状況になってることをハッキリ認めて欲しいといつも思う。



某大企業に居た頃、子会社リストに「ナントカ研究所」というなんかすごいことやってそうな社名の企業があった。ある先輩に、そこってどんなことやってるんですか? となんとなしに聞いたら……色々なことを教えてくれた。そのときの話、俺の経験、他のいろんな人の話などを交えながら、俺が今感じていることを会話調でダラダラと。

ナントカ研究所? タダの下請けだよ。年功序列のためにあるのさ。年功序列ってヤツは年齢あがったら順繰りに出世させにゃならん。給料上げるためにはソレナリの出世させてソレナリのポスト与えんといかんからな。たとえそいつが管理職に向いてなくても、だ。何故かみんな PG -> SE -> マネージャになってくだろ?

一言で言えば給与体系とキャリアプランが「長年勤め上げてご苦労さん」で出来てるってことだな。ところで、ひとつの会社のポストは上に行くほど限りがある。じゃあどうしたかって?

「ポストがなければ会社を作ればいいじゃない」

子会社いっこ作れば社長・副社長・課長・部長...とポストを量産できるワケ。あとは、親会社が受けた仕事を子会社に丸投げすればいい。コの業界がゼネコン体質になったのは色々な理由があるが、こういった事情も絡んでるんだろうよ。

親会社にとってこの下請け構造は実に都合が良い。子飼いの会社が増長したんなら「じゃあ仕事あげない」で尻尾切り。大企業のバリューネームが強すぎる日本じゃ子会社はそう簡単には独自の営業コネクション築けないから、親会社の言いなりになるしかない。え? ここはト○タか霞○関かって?

……この下請け構造は、マッタク同じ仕事を親会社の社員がやるより子会社の人間にやらせたほうが安く上げられる。お客さんの中には二重派遣/下請け嫌う方もいるが、子会社の人間に親会社の社名入れた名刺持たせりゃ済む話だしな。

んで、子会社も「ポストがなければ会社を作ればいいじゃない」を使ったら? ……ま、現状の下請け重層構造がその結果だわな。

実際には上下がキチンとしてるわけでなくドロドロした蜜月関係なんだがね。そうポンポンと天下り先がつぶれて貰うと、親会社もポストの押し付け先に困ってしまうからな。それに、実際になんか作るお仕事してるのは子会社だしな。「俺、仕事取る、お前、モノ作る」何時のまにやら持ちつ持たれつさ。

金の支払い方は一人アタマいくらを決め打ちにしてそれを慣行化させりゃいい。ただでさえソフトウェアは眼に見えなくて評価が難しい上に、テキトーな方法で子会社増やしまくったおかげで、どこの子会社がどんな難易度の仕事こなせるかわかったもんじゃないからな。例え少数の天才が一晩でやってくれました的な仕事しても「チミィ、一人アタマいくらは決まってるんだから、人増やしてくれないとこれ以上は払えんよ」

じゃーどーするかって言うと、子会社に人増やしまくってもらい、給与の取り分振り分けは子会社にお任せという名の丸投げ。ま、員数合わせはド素人でも構わんから、人連れてくるのは楽なもんよ。

こうして膨れ上がる開発プロジェクト。ソフトウェアはただでさえ複雑化しやすいってのに、素人さんにもとりあえず仕事してもらわんとなると、優秀な人間はずっとフォローのターン! メンテ不能な超肥大化ソースコードのいっちょ上がり。

上から下に仕事降らす構造により、仕事を横流しする経路増やせば増やすだけ雇用を創出できるわ、年功序列用のポストも増やせるわ。良いこと尽くめなワケ。まぁ……仕事増やしたはいいが、その増えた仕事を担当していた中間管理職をリストラで大量に切りまくったおかげでツケはぜんぶ現場に行ったがね。仕事のやり方変えないで人だけ減らせば末端に行けば行くほどムリが出るのは当然だわな。リストラを仕事のやり方を見直す手段ではなく、単なる首切り目的で使っちゃったからねぇー。

最近、一部の web アプリ屋がやたら先進的かつスピーディなのに、SIer とかの業務屋・組み込み屋がやたら鈍重なのは、優秀な人間が居ないからじゃないよ。彼らは現状維持で手一杯なのさ。減った人手で毎年毎年来る素人を何とかかんとか使えるように育てるのと肥大化したソースを何とかかんとかあの手この手で延命させていくのにね。

ここ数年で―特に若年層で―嫌気が指すなり心と体がブッ壊れるなりした人間から離脱していく傾向強まってきたから、皮肉なことにある程度は人材流動化に貢献してるかもな。つっても責任感強い人間は若手だろうがベテランだろうがそう簡単には辞めんのだよな。今しばらくは「現場の努力」という綱渡り状態はなんだかんだいって持続するだろうね。

余談だが、コの業界の人間が医者に親近感覚えるのは、戦略レベルの失敗を「現場の努力」とやらで何とかしてる部分に共感するからだと思うね。

現場レベルの改善だけではどうしようもないことはわかっていても停められない仕事に責任感を持っている技術者、社員には泥のように働いてもらうことが都合の良い経営者。もうどうしようも無いと誰もが思っていても、皮肉にも両者の利害は一致してるがために、外から見ると何とかなってるように見えちゃうんだよな。

これじゃあ「働けば報われる」ようなことを言っても鼻で笑われるさ。オッサン方はもう充分報われたかもしれんが、これから就職しようとする連中が報われるかどうかなんてバクチもんだからな。

エライ人が戦略レベルの失敗を認めてくれんことには、俺らのような下層の人間がどんだけ喚いてもナンモ変わらん。なぜなら戦略レベルの失敗を戦術レベルで補うのは無理。経営学の基礎中の基礎だと思うんだがなぁ。

経営者が戦略的失敗を語らないのが不思議でたまらん。ソフトウェア開発はまだまだ未熟な産業なんだから、失敗するのは当然だし、仕事のやり方そのものも変わりまくっていくのも当然。こういう状況下では、ほぼ常にといっていいほどの頻度で、いつ・何を・どんな風に失敗したのかをふりかえらないとダメだろう。

経営も技術だよアニキ。技術はおびただしい失敗の屍の上でやっとこ進展する。コの業界の経営者たちは失敗をもっと語ってくれないと。バラ色の未来を語るのはその後だろう。夢を語る際、イカれた現実を直視してるかしてないかでその意味は変わってくると思うのだが、どうだろうか?