書名からすると、デザインパターンや Wiki の活用方法や事例かと思いきやそうではない。デザインパターンや Wiki、XP といった思想や概念がどのような歴史的経緯で生まれてきたかを探る読み物、といったところ。元々筆者は、Wiki の出自を探るのが目的だったそうだが、源流がアレグザンダーにあることに気づくに至ったようだ。
建築家のアレグザンダーの提唱したパターンランゲージの思想が、ウォード・カニンガムとケント・ベックに見出されてデザインパターン・XP などソフトウェア開発の手法へと昇華されていく様がまるで歴史の読み物を読み進めるかのように書かれている。
パターン、Wiki、XP と並べてみると非常に関連が深いことがわかる。じゃあこれらを結びつけるキーワードは何か? というと、本書的には「無名の質」というものになると思う。この無名の質という概念は何とも厄介で、名前の通り非常に説明に困る代物。かなり抽象的な概念なので仕方が無いといえばそうなんだけど、何となく言わんとするところはわかるのが余計に困る。
たぶん無名の質というのは、文字では言い表すことが出来ないかもしくは難しい文化や習慣のことだと思う。俺は一時期プロジェクトに Wiki を浸透させてみようと実験してた時期があるんだけど、Wiki を日々更新することで俺自身の Wiki に対する理解度や使用法ってのは日々変容していた。そこへさらに他人が来て色々と更新しだすと、ある種の混沌状況に陥ったり、「こうやって更新してくか」みたいなルールが自発的に形成されたりするようになった。Wiki の使い方・使われ方が安定した時期ってのはほとんど無いに等しくて、常に変化し続けていたように思う。そしてある時点で振り返ってみると、気付けばドキュメントの山がナレッジベースになっていた……ような気がする。
なので無名の質ってのは、常に変化し続けるのだけれども、その中において変わらない価値を見出すような、そういう行為や習慣のことを指しているんじゃないかと。無名の質がどーにも分かったような分からないような状況になる原因の一つは、変化し続ける、という点にある気がする。それは、変わり続ける・変え続けるのって気合とか根性とかそういうのを消費する行為なため。変わり続けるものとは・変わらないものとは何かと問い続けるのは労力を要するんですよね。
まぁなんつーかその辺に思いを馳せたい人にはオススメの一冊です。
パターン、Wiki、XP ~時を超えた創造の原則 (WEB+DB PRESS plusシリーズ)
- 作者: 江渡浩一郎
- 出版社/メーカー: 技術評論社
- 発売日: 2009/07/10
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