http://openjdk.java.net/jeps/358
JEP 358: Helpful NullPointerExceptions
Authors Goetz Lindenmaier, Ralf Schmelter Owner Goetz Lindenmaier Type Feature Scope JDK Status Candidate Component hotspot / runtime Discussion hotspot dash runtime dash dev at openjdk dot java dot net, core dash libs dash dev at openjdk dot java dot net Effort S Duration S Reviewed by Alex Buckley, Coleen Phillimore Created 2019/03/15 10:27 Updated 2019/07/29 09:04 Issue 8220715
Summary
JVMが生成するNullPointerExceptions
のユーザビリティを、null
変数を正確に記述することで、改善します。
Goals
- 開発者とサポートスタッフに対しプログラムの予期せぬ終了に関する有用な情報の提供。
- コードと実行時例外の関連付けによりプログラムの理解しやすさ向上。
- 新規開発者が陥りがちな
NullPointerExceptions
に対する混乱と困惑の緩和。
Non-Goals
- 不幸な発生元だけ追跡し、
null
参照を行った大元の追跡までは行わない。 - 複数
NullPointerExceptions
のスローや、ある時点の異なる箇所で複数NullPointerExceptions
をスローは目的外*1。
Motivation
Java開発者はNullPointerExceptions
(NPEs)を必ず目にします。NPEsはプログラム内のどこでも発生しうるため、これを捕捉してリカバリするのはあまり現実的ではありません。このため、開発者は例外発生時にNPEの発生箇所を探すのにJVM頼みになります。たとえば、NPEが以下のコードで発生するとして、
a.i = 99;
JVMは、メソッド・ファイル名・NPE発生行、を出力します。
Exception in thread "main" java.lang.NullPointerException at Prog.main(Prog.java:5)
大抵はバグレポートに含まれる上記メッセージを見て、開発者はa.i = 99;
を探し、ここがnullであろうと推測します。しかし、より複雑なコード場合、デバッガ無しで変数がnullだと判断するのは困難です。NPEが以下のコードで発生するとして、
a.b.c.i = 99;
ファイル名と行番号が、変数がnullな場所を指すとは限りません。a
かb
かc
か、どれかは分かりません。
同様な問題は配列アクセスと代入でも発生します。NPEが以下のコードで発生するとして、
a[i][j][k] = 99;
ファイル名と行番号が、配列の要素がnullな場所を指すとは限りません。a[i]
かa[i][j]
か、どれかは分かりません。
単一行が複数のアクセスパスを持ち、それぞれにNPEの可能性がある場合があります。NPEが以下のコードで発生するとして、
a.i = b.j;
ファイル名と行番号は、問題のあるアクセスパスを指しません。a
かb
か、どれかは分かりません。
最後の例として、メソッド呼び出しがNPEの場合があります。NPEが以下のコードで発生するとして、
x().y().i = 99;
ファイル名と行番号は、nullを返したメソッドを指しません。x()
かy()
、どれかは分かりません。
JVMが正確な場所を指せない点は各種技術で軽減できます。たとえば、NPEが発生したアクセスパスを中間変数で分割します。(var
が便利です。)これによりJVMメッセージ内のnull
変数が正確になりますが、そのためにコードを書き換えるのは望ましくないです。どちらにしても、NPEの大半は本番環境で発生し、NPEを追跡するサポートエンジニアはそのコードを書いた開発者と別なのが普通です。
仮に、JVMがNPE発生箇所情報を提供して発生元の特定を、別途ツールやコードを洗わなくとも可能になれば、Javaのエコシステム全体で有益と考えられます。SAP商用JVMは2006年以来これを提供しており、開発者とサポートエンジニアから高い評価を得ています。
Description
JVMはプログラム内でnull
参照の間接参照を試みた時点でNullPointerException
(NPE)をスローします。バイトコード命令を分析してJVMはnull
変数を検出し、NPEでnull詳細メッセージ(null-detail message)と(ソースコードの)変数を記述します。null詳細メッセージはJVMメッセージに表示され、メソッド・ファイル名・行番号も出します。
注:JVMは例外型と例外メッセージを同一行に出すため行が長くなることがあります。webブラウザでの表示を考慮して、本JEPでは例外型の後に改行を入れたnull詳細メッセージにしています。
たとえば、代入ステートメントa.i = 99;
のNPEは以下のメッセージを生成します。
Exception in thread "main" java.lang.NullPointerException: Cannot assign field 'i' because 'a' is null. at Prog.main(Prog.java:5)
より複雑なステートメントa.b.c.i = 99;
がNPEをスローの場合、メッセージはステートメントを分割して大元を指します。このときnull
となった完全なアクセスパスを示します。
Exception in thread "main" java.lang.NullPointerException: Cannot read field 'c' because 'a.b' is null. at Prog.main(Prog.java:5)
null
のフィールド名だけよりも完全なアクセスパスの方がユーザユレンドリで、開発者が複雑なコードを読む際の助けになります。特にコード行に複数同一名がある場合に役立ちます。
同様に配列アクセスと代入ステートメントa[i][j][k] = 99;
がNPEをスローする場合、
Exception in thread "main" java.lang.NullPointerException: Cannot load from object array because 'a[i][j]' is null. at Prog.main(Prog.java:5)
またa.i = b.j;
がNPEをスローする場合も同様に、
Exception in thread "main" java.lang.NullPointerException: Cannot read field 'j' because 'b' is null. at Prog.main(Prog.java:5)
いずれのサンプルにおいても、ソースコードのnull
式を指すのに行番号つきのnull詳細メッセージは有用です。理想的には、実際のソースコードを示したいですが、ソースコードとバイトコード命令との関係を考慮すると難しいです(下記参照)。また、null詳細メッセージではnull
要素となる配列インデックスを示すことは出来ません、たとえばa[i][j]
がnull
となる場合のi
とj
の実行時における値など。これは配列インデックスはメソッドのオペランドスタックにあり、NPEスロー時に失われるためです。
JVMが直接生成及びスローするNPEのみnull詳細メッセージになります。JVM上のプログラムが明示的に生成またはスローの両方をするNPEはバイトコード分析の対象ではなくnull詳細メッセージ生成は以下に記述します。また、null詳細メッセージはhidden methodsで起きたNPEについては対象外です。hidden methodsはJVMが生成して呼び出す特殊用途低レベルメソッド(special-purpose low-level methods)で、文字列結合の最適化のためなどに使われます。hidden methodsはNPEのソースを指すためのファイル名や行番号が無いため、null詳細メッセージには適しません。
Computing the null-detail message
a.b.c.i = 99;
のようなソースコードをコンパイルすると複数のバイトコード命令になります。NPEスロー時、JVMはどのメソッドに原因があるバイトコード命令なのかを正確に把握しており、null詳細メッセージの算出にはその情報を使用します。このメッセージは2つの部分から成ります。
- 前半部分 --
Cannot read field 'c'
-- NPEの結果(consequence)。バイトコード命令がオペランドスタックからnull
をポップしたのでそのアクションを実行できなかった事を示す。 - 後半部分 --
because 'a.b' is null
-- NPEの原因(reason)。オペランドスタックにnull
参照をプッシュしたソースコード箇所を再構築する。
null詳細メッセージの前半部分は、以下Table 1;に示すように、null
をポップしたバイトコード命令から生成します。
bytecode | 1st part |
---|---|
aload | "Cannot load from <element type> array" |
arraylength | "Cannot read the array length" |
astore | "Cannot store to <element type> array" |
athrow | "Cannot throw exception" |
getfield | "Cannot read field '<field name>'" |
invokeinterface , invokespecial , invokevirtual | "Cannot invoke '<method>'" |
monitorenter | "Cannot enter synchronized block" |
monitorexit | "Cannot exit synchronized block" |
putfield | "Cannot assign field '<field name>'" |
Any other bytecode | No NPE possible, no message |
<method>
は<class name>.<method name>(<parameter types>)
にブレークダウンします。
null詳細メッセージの後半部分は前半に比べると複雑です。オペランドスタックでnull
参照となったアクセスパスを特定しますが、複合的なアクセスパスは複数のバイトコード命令を持ちます。メソッドの命令シーケンスだけでは、それより前の命令がnull
参照をプッシュしたかが明確ではありません。よって、シンプルなデータフロー解析をすべてのメソッド命令で実行します。この処理は命令をオペランドスタックスロットにプッシュし、スロットをポップする命令にその情報を伝播させます。(この分析は命令数に線形比例します。)分析後、ソースコードのアクセスパスを構成する命令をステップバック可能になります。メッセージの後半部分はステップバイステップで組み立て、ステップごとのバイトコード命令はTable 2の通りです。
bytecode | 2nd part |
---|---|
aconst _null | "'null'" |
aaload | compute the 2nd part for the instruction which pushed the array reference, then append "[", then compute the 2nd part for the instruction that pushed the index, then append "]" |
iconst_* , bipush , sipush | the constant value |
getfield | compute the 2nd part for the instruction which pushed the reference that is accessed by this getfield, then append ".<field name>" |
getstatic | "<class name>.<field name>" |
invokeinterface , invokevirtual , invokespecial , invokestatic |
If in the first step, "the return value of '<method>'", else "'<method>'" |
iload* , aload* | For local variable 0, "this". For other local variables and parameters, the variable name if a local variable table is available, otherwise "<parameter i >" or "<local i >". |
Any other bytecode | Not applicable to the second part. |
アクセスパスは任意数のバイトコード命令で構成します。null詳細メッセージはそのすべてをカバーする必要はありません。出力を簡潔にするために命令のステップバック数を制限します。もしステップの最大値に達する場合、"..."などのプレースホルダーは省略します。レアケースでは、命令のステップバックが不可能なため、null詳細メッセージは前半部分のみになります("Cannot ..."は有るが"because ..."は無し)。
null詳細メッセージ -- Cannot read field 'c' because 'a.b' is null.
-- は、JVMがThrowable::getMessage
を呼ぶときそのメッセージの一部として、オンデマンドに生成します。通例では、例外に入れるメッセージは例外オブジェクトの生成時)に作りますが、メッセージ生成処理は高価で常に必要とは限りません、たとえば大量のNPEをキャッチしてプログラムが無視するなど。生成処理で必要なのは、NPEを引き起こしたメソッドのバイトコード命令と、null
をポップした命令インデックスです。幸運にも、Throwable
実装は例外元に関するそうした情報を持っています。
本機能は新規のbooleanコマンドラインオプション-XX:{+|-}ShowCodeDetailsInExceptionMessages
で制御します。オプションは当初はデフォルト'false'でメッセージは表示しません。デフォルトで詳細な例外メッセージを有効化するのは後々のリリースで行う予定です。
Example of computing the null-detail message
以下のコードを基に例を示します。
a().b[i][j] = 99;
このコードは以下のバイトコードになります。
5: invokestatic #7 // Method a:()LA; 8: getfield #13 // Field A.b, an array 11: iload_1 // Load local variable i, an array index 12: aaload // Load b[i], another array 13: iload_2 // Load local variable j, another array index 14: bipush 99 16: iastore // Store to b[i][j]
いまa().b[i]
がnull
とします。これがb[i][j]
への代入時のNPEの原因になります。JVMが16: iastore
を実行するとNPEをスローします。この原因は12: aaload
がオペランドスタックにnull
をプッシュしたためです。null詳細メッセージの生成は以下になります。
Cannot store to int array because 'Test.a().b[i]' is null.
この生成処理は、バイトコードindex 16と、バイトコード命令を持つメソッドから開始します。index 16の命令はiastore
なので、メッセージの前半部分はTable 1を参照して"Cannot store to int array"になります。
メッセージの後半部分については、不幸にもnull
をプッシュしたiastore
命令にステップバックします。データフロー解析が配列にロードする12: aaload
が原因と判断します。Table 2を参照し、配列へのロードがnull
参照の原因なので、オペランドスタックに配列参照をプッシュする命令8: getfield
にステップバックします。再度Table 2を参照し、getfield
がアクセスパスの一部なので、getfield
で参照をプッシュする命令5: invokestatic
にステップバックします。以上によりメッセージの後半部分は以下のように組み上げます。
- For 5: invokestatic, emit "Test.a()"
- For 8: getfield, emit ".b"
- For 12: aaload, emit '[" and stepback to the instruction that pushed the index, 11: iload_1. Emit "i", the name of local variable #1, then "]".
ここではindex jをプッシュする13: iload_2
や99をプッシュする14: bipush
は出てきませんが、これらはNPEの原因とは無関係なためです。
null詳細メッセージの他のサンプルについてはmessages when class files contain a local variable tableとmessages when class files do not contain a local variable tableに多数あります。
Alternatives
The presence of the null-detail message
JVMでは、stdout書き込み・トレーシング・ロギング機能、など各種方法でnull詳細情報を出力可能です。しかし、例外はJVMで問題を報告する標準的な方法で、現状でもNPEは例外発生箇所プラス行番号とスタックトレースを出しています。この情報だけでは原因特定には不十分で、NPEに情報追加が自然な解決策です。
null詳細メッセージはデフォルトオフでコマンドラインオプション-XX:+ShowCodeDetailsInExceptionMessages
で有効化します。NPEを引き起こすバイトコードのうち特定のものだけを指定する方法はありません。以下理由により、あらゆる状況下でnull詳細メッセージが望ましいわけではありません。
- Performance. スタックトレース生成のオーバーヘッドが追加になります。しかし、例外発生時に実行するstack walkingと同程度です。アプリケーションが頻繁に例外をスローしてメッセージを表示するならパフォーマンスに影響を与えますが、それはすでに避けるべきオーバーヘッドが発生しています。
- Security. null詳細メッセージは他の手段では入手の難しいソースコード情報を取得します。これをさせないようにメッセージをオフに出来ますが、例外メッセージは問題解決のための原因に関する情報の出力を想定しています。情報の露出が許容出来ない場合、アプリケーションでメッセージを表示しないのが良いですが、この場合例外はキャッチすると破棄されます。これはJVMの設定で処理すべきではありません。
- Compatibility. これまでJVMはNPEにメッセージを含めていなかったので、メッセージ有りにすると、強引にスタックトレースをパースするツールで問題を起こす可能性があります。しかし、Javaプログラムはメッセージを含むNPEをスロー可能だったので、ツールはJVMのNPEのメッセージに適応出来ると思われます。関連リスクとしては、ツールがnull詳細メッセージのフォーマットに依存する可能性があります。
デフォルトでnull詳細メッセージを有効化するのは将来のリリースを考えています。
The computation of the null-detail message
オンデマンドのnull詳細メッセージ生成はより複雑な状況下ではメッセージの可用性に影響があります。
- RMI経由リモートコード実行時、リモートコードがスローする例外はシリアライズ処理を介して呼び出し元に届きます。例外オブジェクトのシリアライズは内部的なデータ構造を保存しないので、リモートコードがスローしてNPEをシリアライズする場合、最終的なデシリアライズ処理が生成するNPEではnull詳細メッセージをオンデマンドで生成できません。
- JVMTIを使用するJavaエージェントがメソッドを再定義するなどの場合、プログラム実行中にメソッドのバイトコード命令が変更されて、その間はオリジナルの命令が保持されますが、GCで破棄出来ます。オリジナルの命令がnull詳細メッセージの生成には必要なので、この場合にはオンデマンドでのnull詳細メッセージ生成は行われなくなります。
NullPointerException
クラスの修正を最小化するためにシリアライズをサポートしない事にしました。シリアライズにおけるnull詳細メッセージの永続化が望ましい場合、writeReplace
をそのクラスに実装します。もしくは、例外オブジェクト生成時にnull詳細メッセージを生成し、シリアライズとメソッド再定義の両方でそのnull詳細メッセージを永続化します。
The format of the null-detail message
null詳細メッセージは前半・後半に分けられます。前半部分は実行出来なかったアクション(NPEの結果(consequence))で、後半部分はそのアクション以前でオペランドスタックにnull
参照をプッシュした式(NPEの原因(reason))です。しかし、ソースコードのnull
式を指すのにメッセージの一部だけが必要な場合は冗長なテキストとなる場合があります。例として、以下2ケースではメッセージを省略する方が有用かもしれません。
- 配列アクセス失敗時 --
Cannot load from object array because 'a[i][j]' isnull.
-- 後半部分'a[i][j]' is null
だけでソースコード中のa[i][j][k] = 99;
がnull
と特定できます。 - メソッド呼び出し失敗時 --
Cannot invoke 'NullPointerExceptionTest.callWithTypes(String[][], int[][][], float, long, short, boolean, byte, double, char)' because...
-- メソッドの宣言型とパラメータが長々として見にくくなる場合があり、開発者がnull
箇所を特定する妨げになるので省略可能です。
上記背景はありますが、null詳細メッセージはこうした省略をしません。任意数のバイトコート命令を処理するメッセージ生成なので、常に有用なメッセージを組み立てられるとは限りません。たとえば、配列アクセス失敗時、後半部分を完全には生成出来ない場合があり、これはもし前半部分を省略してメッセージが何も無くなると発生しますが、前半部分だけでソースコードのnull
参照の特定に十分なこともあります。基本的には、メッセージは一連の命令から組み立てるため、十分な情報を収集してある時点であるパーツを省略するかどうかの決定は、メッセージの有用性を損なうこと無しには、機械的に簡単には下せません。よって、なるべく多様な状況下でメッセージが役に立つようにすべての情報を出力する事にしました。
Risks and Assumptions
JVM仕様に新しいバイトコードが追加された場合null詳細メッセージ生成を拡張するという想定です。
null詳細メッセージにはソースコード由来の変数名を含む場合があります。こうした情報の露出はセキュリティリスクになりえます。とくにclass
ファイルにデバッグ情報を含む(javac -g
)場合、ローカル変数名を出力します。これらはJavaのリフレクションAPI経由で他プログラムで以前は利用出来ませんでした(適切なパーミッションを持つプログラムはClassLoader::getResourceAsStream()
を介してclassファイルを参照可能とはいえ)。しかし、ローカル変数名の省略はメッセージの利点を制限するとも言えます。
Testing
本機能のプロトタイプはJDK-8218628で実装しています。この プロトタイプにはメッセージの各部分のユニットテストがあります。SAPの商用JVMという先駆者の実装で2006年以来の実績があり、安定を証明しています。
レグレッション回避のためコードの大部分をテストする必要があります。jThe jtreg tests should be run to detect other tests that handle the message and need to be adapted.
*1:It is not a goal to throw more NullPointerExceptions, or to throw them at a different point in time. が原文。more..なのでこういう意味では無いかもしれない。