kagamihogeの日記

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火天の城

帰省した折、父親から「偶にはこのような小説も読んではどうか」と薦められた一冊。調べてみると映画化されていたりと、その界隈では有名な時代小説なようだ。時代小説というジャンルの本は一冊も読んだことがなかったので、かなり新鮮な気持ちで読めた。最も、逆を言うと普段読まない文体なだけに苦戦したともいえるのだけども。しかしながら、織田信長の野望安土城の建築物語という壮大なテーマに加えて重厚な筆致には終始惹きこまれっぱなしだった。

物語は、安土城という前代未聞の大建築の精密な描写とそれに関わる人たちの人間ドラマを中心に進んでいく。ストーリーの大部分を占めるのは、物語時間で三年にも及ぶ長い時間をかけての築城の描写である。難解な建築用語を多用しての説明は読みなれていないものにとっての読みにくさがあるものの、丹念に書き込まれたそれらの臨場感は背筋を奮わせるものがある。また、多大な人間が関わりつつも徐々に城という余りにも巨大な構造物が立ち上がっていく様は、畑が違えどひとりの技術者としては興奮させられた。

築城を描くにあたりストーリーで大きなウェイトを占める人物たちは大工・棟梁である。彼らの奮闘振りもまた見所である。何といっても一番の注目は、信長の無茶振りに気骨で応えまくる総棟梁・岡部又右衛門だろう。彼は職人魂の塊みたいな人物で信じられないくらい頑固ではあるものの、大工たち職人を一手に束ねるだけのカリスマ性と類まれなる建築センスで前代未聞の安土城建設プロジェクトを推し進めていく。その姿はプロジェクトX顔負けである。

その他にも見所はたっぷりある。ついには死人まで出る難工事、信長に何とか一矢報いたい勢力との暗闘、日々建築という戦いを行う男たちを陰から支える女性たち、大工棟梁として乗り越えるべき対象である父と後継者である子とのせめぎ合い。

信長と安土城のたどる末路はもちろん現代人の我々は知るところではあるのだけど。本書を読んで軽く興奮を覚えるのはその最後を知るからこそか、それとも本書自身の持つただならぬ魅力ゆえか。新年早々にすごい小説に出会ってしまったものです。

火天の城 (文春文庫)

火天の城 (文春文庫)