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撃沈された船員たちの記録―戦争の底辺で働いた輸送船の戦い (光人社NF文庫)

海上護衛戦 - kagamihogeのblog第二次世界大戦中の日本の海上交通線についてマクロに語った名著だが、本書はミクロのレベルで起きた事実が書かれている。その内容のすべてが悲惨なものである。海上護衛戦では日本軍部がいかに海上交通線の確保や補給作戦について無知・無策であったかが描かれていたが、その結果が海運の現場にどのように反映されたかがこれでもかと書かれている。

第二次世界大戦中、日本の補給作戦に従事した船舶はそのほとんどが撃沈されている。なぜ沈みまくったかといえば、つまるところ上の人たちが補給を軽視しまくった結果に他ならない。本書では、沈み行く船で一体何が起きたのか、現場にいあわせた人たちのインタビューで構成されている。読むに耐えないほどむごたらしい記述もあるが、日本人としてこの歴史から眼をそむけてはいけないだろう。大局を見誤ることが現場にどんな結末をもたらすか、そこから逃げてはいけない、と語りかけてきているような気がする。

本書で語られているが、まともな記録さえ残らず沈んでいった船の本当に多いことか。何故かといえばこれもやはりロクな護衛がつかなかったことに起因する。海上護衛戦で詳細に考察が行われているが、船団は複数、なるべく多数で行うのが基本である(平時はその限りではないだろうが) なぜかといえば、撃沈された際に救助を迅速に行うこともできなければ、記録を残して後に生かすことすらできなくなるからである。

そもそも記録すら残らなかったというところに日本には海運軽視の風潮があるわけだが(今はどうだか知らないけど)、本書では興味深い船員の証言がある。イギリスに航行していたその船員は、当地の新聞で「島国の我々イギリスがこの先生きのこるため、如何にして海上交通線を確保すべきか?」という議論が行われているのを見て驚いたという。果たして日本でこのような記事が載ることがあるのだろうか、と。

また、軍部の海運蔑視は現場レベルでも酷かったようだ。船員たちの生なましい証言なのである程度の誇張はあるだろう、との脚注尽きではあるが、時に海運に従事する船員たちは家畜以下の扱いを受けていたようだ。要は、戦闘の表舞台に立たない裏方達はその程度の扱いで十分との意識からだろう。戦地へ貴重な物資を運ぼうと懸命になり、無謀な作戦の果て船を失い、文字通り命からがら辿りついた戦地で軍人から無碍な扱いを受けた船員たちの胸中はいかばかりだったろうか。

本書には、一般に知られざる戦争の一端が描かれている。そう感じさせてくれる一冊でした。

撃沈された船員たちの記録―戦争の底辺で働いた輸送船の戦い (光人社NF文庫)

撃沈された船員たちの記録―戦争の底辺で働いた輸送船の戦い (光人社NF文庫)