kagamihogeの日記

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伝説の外資トップが説く リーダーの教科書

チームで何がしかをする活動において、その活動が成功するかどうかを大きく決める要因の一つに、チームを率いる人物の資質というのが良く取り上げられる。本当に不思議なことではあるんだけど、組織の頭がすげ換わるだけで劇的にパフォーマンスの向上を見せた事例というのは本当にタクサン存在する。

俺が従事しているソフトウェア開発という領域においてもやはり同じで、チームを率いる人間が原因で状況が好転したり悪化したとしか思えない事態に遭遇したことがある。チームを率いる人間が変わるだけで何でこんなに色々変わってくるのかも不思議ではあるのだけど、俺にとって更に不思議なことがもう一つある。それは、プロジェクトが上手くいくかどうかは、プロジェクトを統括する人間が技術者として優れているかどうかとは、必ずしも関連性が無いらしい、ということ。

ソフトウェア開発にはどうしてもまだまだ職人芸的要素を排除出来ないところがあるため、プロジェクトを率いるからにはプログラマとしても優れている必要がある……と思っていたのだけど、どうも現実はそうでもないらしい。職人として必要な技術と、監督者として必要な技術はベツモノであり、プログラマとして優れているからといってプロジェクトマネージャーとしても優れた活動が出来るわけではなく、またその逆もしかり。無論、両方出来てしまう人もいる。*1

では、プロジェクトを、引いては仕事を成功に導く「リーダー」とは一体何なのか。技術職として優れていても管理職としては上手くいかないケースがあるのは何故なのか。優れたリーダーとは一体どのような資質を持ち合わせているのか。

本書は、その辺りの疑問について指針を与えてくれる。例えば、先の「プロジェクトを統括するマネージャーが技術者として優れているかどうかとはそれほど深い関係が無いらしい」問題については、以下の抜粋がヒントになると考えている。

企業は、一人ひとりの社員が上げた成果や結果の継続的累積で伸びる。結果を出すために必要なのは仕事の能力、というスキルである。だから、もちろんスキルは重要なのだが、実はこれだけでは望ましいリーダーにはなれない。そこで重要になるのが、「人間的能力」なのだ。人生哲学、価値観、行動指針、仕事に対する情熱などを踏まえた広い意味での人間的能力である。これを私は総称して、「スキル」に対して「マインド」と呼んでいる。

(中略)

こう書くと、反論が聞こえてきそうだ。「しょせん仕事の最終目的は利益。利益を出すにはスキルが重要。なにもマインドなどという抹香臭いものを持ち出し、ややこしいことを言う必要はないだろう」……。しかし、それは明らかに間違っている。「人は論理により説得され、感情により動く」動物だからだ。

(中略)

スキルだけが優れた人のことを、私は「できる人」と呼ぶ。そして、マインドだけが優れた人、人間力の高い人は「できた人」と呼ぶ。もし、部下を一人も持たない専門職のスペシャリストなら、「できる人」でいいだろう。また、「できた人」というのも、組織の中ではそれなりの役割がある。こういう人たちも会社の中に一部必要ではある。だが、多くの部下の上に立ち、士気を鼓舞(インスパイア)して、ぐいぐい前進させるリーダーこそが勝ち残る組織には絶対に欠かせないのだ。

伝説の外資トップが説く リーダーの教科書 第 1 章 これからリーダーになる人へ 上司の心得 Lesson 10 「できる人」と「できた人」 より抜粋

ちょっと長々と引用してしまったけれど。本書では上記で引用したように、人の上に立つリーダーとは「スキル」と「マインド」のバランスを取れた状態のことを言うのだ、と繰り返し繰り返し述べている。

日経なんちゃらー系の、いわゆる経営層に居る人たちが人間力が大切うんぬんとウンチクたれる記事は今ひとつよくわからんかったのだけど、今なら何となく分かる気がする。たぶんアレは、ウチらの業界でいえば、PG > SE > PM な「給与と肩書きが一緒くたに上がるしかない」キャリアパスで今管理職に居る人たち向けに言っているんだろうな、と。スキル的には充分だから、マインドを鍛えて部下を引っ張れる存在になってくれと。まぁ予測にしか過ぎないけど。

とはいえ、誰もがそんな強靭無敵になれるわけでもないし、なりたいと思わなくても自然なことなわけで。この業界的に言い換えれば、一生プログラマでいたいとか出世なんてしたくないよとか思う人はどうすりゃいいんだよ、って話にモチロンなる。その辺に関しても興味深い言説がある。

スキル(仕事力)型で、任せていい仕事をする人間には給料で報いればいいのだ。そしてマインド(人間力)型で、その人を信じることができるという部下には、役職で報いればいい。名誉やポジションを与えるのである。そして、仕事力をよく信じることができ、同時に人間的にも信じることができるようになった部下には部下をつける。仕事をめいっぱい任せる。そして自分の後継者として育てる。これが大切な仕事になる。

伝説の外資トップが説く リーダーの教科書 第 4 章 選ばれたリーダーをめざす人へ 上司の役割 Lesson 9 結果には報酬で報いる。努力には名誉で報いる より抜粋

まぁぶっちゃけ PG > SE > PM という道が一本しかない人事制度は止めようや、ということなんだろうけど*2。この章でもう一つ重要なのは「昇進と降格はセットで」という指摘だと思う。

昇進させたままで降格がなければどうなるか。これは単なる既得権益になってしまう。何をしてもしなくても降格はないのだ。部下から見ていれば、これほど不条理なことはないだろう。たいした仕事をしていなくても、課長はずっと課長でいられる。デキない人間が上にいるのだ。部下の不満はいかほどか、と思う。

伝説の外資トップが説く リーダーの教科書 第 4 章 選ばれたリーダーをめざす人へ 上司の役割 Lesson 9 結果には報酬で報いる。努力には名誉で報いる より抜粋

配置転換の手法の一つとして降格を使おう、ということ。降格というとどーにも負のイメージがあるけど、敗者復活戦的な運用がされてれば、チャンスは均等になるわけだから、そっちの方がよほど公平なわけで。「マネージャ向いてなさげなんでプログラマに鞍替え(役職的には降格人事)」とかそんな感じですかね? んー、この先生きのこる企業ってのは、人事制度設計が柔軟な会社なのかもしれないね。

……あと、どーでもいいんだけど、昔はこのテのビジネス書って胡散臭くて敬遠してたんだけど、伝説の外資トップ(笑)っていうかなんというか(失礼なヤツだw) でも、良いことタクサン書いてあるんだよねぇ……。考えさせられる記述がすごい多かったです。まぁ、なんつーかアレだ、もっと熱くなりたい人 向けの一冊です。

伝説の外資トップが説く リーダーの教科書

伝説の外資トップが説く リーダーの教科書

*1:ラインとしての管理職とプロジェクトマネージメントとしての管理職がごった煮になってるけど、コレは俺がその辺りの職責区分を理解してないことと明確に分けている体制で働いたことが無いことに由来してます。このエントリで「プロジェクトを統括する人間」とか「プロジェクト [マネージャー|リーダー]」とか書いてる場合、単に部下を持つ立場のことをなんとなーく言ってると思ってください。

*2:別にこの一本道が悪いと言う気は無い。道が一本しか無いことが問題なわけで。