kagamihogeの日記

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農協の陰謀


ここのところは余り見ることはないがTPP関連のニュースで農家の方々が反対のシュプレヒコールを上げているのをよく見かけた。俺はあれにちょっと違和感があった。TPPの仔細はともかく国レベルの話題であり、偏見かもしれないが農家の個々人が強い関心を持って、しかも年配の方々がワザワザ集結するとはちょっと考えにくかったのだ。本書を読んで大体その背景は理解できたのだが、要はJA農協が集票マシーンになっているので世論操作の一巻として動員できるだけの政治力を持っている、ということのようだ。

農業共同組合という、農家のための組織であるはずのJA農協が何故このような政治力を持ってしまっているのかが本書ではまず解説される。ところで俺はずっと郵便受けに放り込まれるチラシによくJA農協の保険(JA共済)が疑問だった。なぜ農業のための組織が保険事業が出来るのか? と。農協が農家の出荷から肥料や資材の購入経路など金の流れを抑え、預金も農協が握れば各種金融商品の売り込みは簡単である。独占禁止法とかどうなってんだ、って話なんですが、そこが巧妙に逃げ道が用意されており、JA農協は最早協同組合とは名ばかりの巨大な利権組織になり、結果として強い政治力を持つまでになってしまっている。

こうなると割を食うのは農業を主たる業務とする農家である。上からの統制がイチイチかかっていてはビジネスは最適化のしようがない。また、JA農協の組織としては農業関連の業務よりも金融事業の方がずっと儲けが大きくなっており、組織維持にはそちらの方がずっと重要になる。JA農協からすれば農家は選挙用の集票装置として機能してくれればそれで良く、日本の農業発展のために働きかけるインセンティブは無い。本書では歴史的背景も踏まえて、なぜJA農協がこのような組織になりはててしまったのかの詳細な解説が含まれている。

著者の主張は他のTPP賛同者と同じく、農業も一つのビジネスとして捉えれば良い、というシンプルなもの。戸別所得補償のあり方であるとか細々としたところでは色々違いはあるけれど、真っ当な経済感覚からすれば変なことは言ってはいない。JA農協からすれば「新自由主義どもめ」ということになるんだろうけど、自由貿易をマッタク考慮に入れない経済政策は現実的にはもう有り得ないでしょう。それに投機筋に金を流し込んでるJA農協がTPPに批判的なのはちょっと支離滅裂というか……

著者の主張は、もはやJA農協は矛盾だらけの肥大化した組織を化し日本で農業を主体とする農家のビジネスを圧迫しているので、解消すべきとしている。なお、単にJA農協を潰せというわけではなく、国策として必要な部分は残し、民業に委ねるべき部分は任せ、必要な機能は分離独立させればよい、とごく当然のことを述べているにすぎない。ただ、これをやるにはトップダウンの強力な指揮下のもとでエイヤとやるのが一番速いのだが、政権が迷走状態では難しいだろう、とも書かれている。

農協の陰謀?「TPP反対」に隠された巨大組織の思惑 (宝島社新書)

農協の陰謀?「TPP反対」に隠された巨大組織の思惑 (宝島社新書)