kagamihogeの日記

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ユーゴスラヴィア現代史

いわゆる 2ch まとめブログサイトで 「戦争の体験談を語るわ」目次 - BI@K accelerated: hatena annex, bewaad.com を見て以来、一冊くらいはユーゴスラヴィアの本読みたいなぁと思っていた。例のまとめサイトで、なんかスゲー悲惨なことがヨーロッパの遠くの国であったのは分かったけど、それってどういう背景で起きたんですかね? っていうのが知りたかったのです。内戦の悲惨さについてはよく理解できたので、さしあたっては史実の流れに沿った経過を知る本が一冊欲しかった。というわけで amazon などでのレビュー評価も高い本書をチョイスしました。

本書は、1800〜1900年代のオスマン帝国・ハプスブルグ帝国支配化の時代から始まり、セルビア王国の形成と第一次世界大戦と「第一のユーゴ」の形成、次に第二次世界大戦と列強による分割とパルチザン戦争について触れ、戦後に独自の社会主義を導入するに至る経緯を解説し、チトーの業績を整理し、東欧各国の社会主義が崩壊する中ユーゴスラヴィアもその大きな波に飲まれて混沌の様相を呈しはじめ、ついにはユーゴスラヴィア内戦へと至る……様子が書かれている。

本書を読むまでユーゴスラヴィアに関する俺の知識は、せいぜい一次大戦の引き金となったサラエヴォ事件、あとは近年の内戦を報道で盛んにセルビアを悪者扱いしてたのや、空爆の映像くらいだろうか。そんな程度の理解だったので、この地域の複雑さは想像を遥かに越えたものだった。例えば、本書を読めばわかることではあるが、セルビアが絶対的な悪党だったかというと実はそうでもなく。というか、善悪にカンタンに分けられるほど甘い歴史ではない。これはたぶん、日本人が民族という概念を普段それほど意識せずに暮らしている平和な国である限り、ユーゴスラヴィアというものを歴史の流れとして理解できても根本的には理解しがたいような気がしないでもない。

そんな複雑な歴史を持つユーゴスラヴィアであるが、多様な文化が混在するが故に持つ潜在的な強さが面白いと思った。たとえばサッカーユーゴスラビア代表は強豪国だったのはサッカー素人の俺でも知るところである。また、本書でも筆者が指摘するように、ユーゴスラヴィアは映画監督、作家、演奏家など優れた芸術家を輩出している、とある。このことは、言語・宗教・文字などなど実に多様なモノをお互いに認め合えすることが出来れば、高いポテンシャルを引き出せることを示唆している。とはいえ、それが非常な困難を伴うことはユーゴスラヴィアの歴史が示してもいるのだけど……

だからこそ筆者は、民族だけでもなく言語だけでもない、何か別の括り方での国家を規定するシステムを模索すべきだ、という言葉で本書を締めくくっている。それが何かについては本書の分を超えるだろうこともあり、サラリとしか触れられてはいないのだけど。ただまぁ……もしそんなものがあるとして、それは連邦国家でもなく民族自決にも基づかない国家形成となる。それは政治だけでなく経済のあり方にも影響してくるだろうし、どんな姿になるんでしょうね。

なんというか―若干不謹慎な意見かもしれないけれど―現代史は現代に繋がる生々しさが面白いです。

ユーゴスラヴィア現代史 (岩波新書)

ユーゴスラヴィア現代史 (岩波新書)