おそらく日本で AR に最も詳しいであろう人物の一角を担う @akihito こと小林啓倫氏の著作。内容は、AR とは何かを定義しようとする試みから始まり、国内外の AR の事例紹介とその解説、そして著者独自の視点から AR の可能性とビジネスとしてどのように向き合うべきかを論じる、といった構成になっている。AR の様々な側面を俯瞰する一冊、といったところだろうか。
AR(Augmented Reality)―拡張現実―とは何か。ウチの blog 読むような層であれば事例のひとつやふたつ知ってはいるだろう。AR? なんだそれシラネーヨという人は本書を読んで下さい、というのが手っ取り早い。が、動画を見たほうが手っ取り早いので、俺の独断と偏見で幾つかピックアップしておきたい。
個人的にはまだまだ水物の感がある AR。だが幾つか動画を見ればわくわくするというか、何か面白いものに化けそうな予感はヒシヒシと伝わってくる。実際、海外では AR を前面に打ち出した企業が幾つか軌道に乗り出しているという。勿論日本も 頓知・ を筆頭に勃興し出している。興味深いのは、海外はウェブカメラの普及率が高くその点を踏まえ室内で使うアプリが多めなようだ。しかし日本はそうではないためか屋外の事例が多いく、著者はそういった点を踏まえ「日本は AR 先進国と言えるのでは」と述べている。そのほかにも本書では様々な視点から AR を捉える考察をしており、著者の AR の可能性にかける熱い思いが見て取れる。
個人的に興味深かったのは、コミュニケーションと AR の関係を論じた章である。これまでコンピュータとインターネットの技術は、現実という空間的・時間的制約を乗り越え仮想空間に置き換える方向で進化してきた。逆に AR は現実空間という制約の上に構築するものであり、そうした意味では先祖帰りしているともとれる。SNS、ソーシャルアプリ・ゲームなど仮想空間上のコミュニケーションが流行する一方、その場に行かないと体験できない AR は一見不便に見える。しかし、著者曰く「そうした制約こそが物理的なコミュニケーションに繋げられるのでは」と自論を展開する。元来人は対面のコミュニケーションを求めるものである。コミュニケーションの希薄化が問題視されて久しいが、AR はそれに一石を投じる存在になりうるかどうか……見ものである。
また著者は、AR はまだまだ発展途上のテクノロジーであるため、AR はこういうものとの早期の定義付けは、AR の可能性を狭めかねないとも主張している。既存の事例にとらわれ過ぎるのは危険だ、との警鐘なのだろう。しかし私見ではあるが、その点が本書をちょっと読みにくくさせているような気がする。AR はこういうものだと著者の独断でもいいから方向付けがないためか、本書の様々な考察がやや散漫な印象がある。先に書いたようにざっくばらんに色々な視点から AR を論じている点は本書の素晴らしい点である。その反面、もう少し断定的に書いてしまった方が一冊の本としてのまとまりは良くなるのでは……とも感じた。
まぁ新書にそこまで要求するのは筋違いというのも御尤もだし、未知数の分野を取り上げればこうした論調になるのも已む無しなのだろうけど……先進的な取り組みの紹介&考察な本なだけに、良い意味で「ちょっと勿体無いなぁ」と感じたのですよね。まぁ蛇足です、ハイ。
それにしても「姉ヶ崎 寧々」*1連呼しすぎや!(誉め言葉)
- 作者: 小林啓倫
- 出版社/メーカー: 毎日コミュニケーションズ
- 発売日: 2010/07/24
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