kagamihogeの日記

kagamihogeの日記です。

World Usability Day 2008 に行ってきた

先日、HCD-Net 人間中心設計推進機構 主催の World Usability Day 2008 Japan (概要(PDF))に行ってきました。主題はユーザビリティ(Usability)なるもの。日本語だと上手い訳はどうなるかわからないけど……HCD-Japan のページだと人間中心設計って言葉を使ってるね。日本でのユーザビリティの研究分野としては人間工学・認知科学認知心理学あたりになるのかな? ただ、脳科学・心理学・言語学にも関連があったりと、学際的な側面が大きくもある。とはいえ、日本じゃユーザビリティの研究はまだまだ盛り上がってるとは良いがたい状況でもあるらしい*1。そういやぁ複雑系の領域もそんな感じな気はするね。

それはさておき。俺がこの勉強会に参加した経緯についてちょっと書いておく。現在、俺は要素技術として Flex + Java な Web アプリケーションに興味を持っていて、ちまちまと調べたりしている(最近だと yui-frameworks とか)。Flex とか Silverlight とかって、単純に見た目だけの話だと、今までブラウザだけでやってた Web アプリケーションがちょっと便利になったよね程度の話になりがちなんだけど、もうちょっと奥深いものに結び付けられる気がするんだよね。すっごく端的な言い方すると、最近あちらこちらでチラホラと UX(User Experience) なる怪しげなバズワードっぽい何かを流行らせようと必死な人たちの気持ちわかるなーみたいな。

で、その辺を研究することで、業務アプリケーションの領域でも何か活かせる知見が得られるのではないかなーと。お客様が仕事をたのしくやれる業務アプリケーション作りに何か役立つことが得られないかなー*2、ってのが、この勉強会に行こうと思ったきっかけです。

以下、トークセッションの内容について&毎度のお断り文句。自分の所感・意見と登壇者の発言やプレゼン資料の内容ごちゃ混ぜに書くので、読みにくい点が多々あると思います。日本語崩壊してる部分も多々です。自分用の備忘録的な意味合いの強いエントリなので、そのあたりの読みにくさについてはご容赦願います。

World Usability Day のご紹介と海外イベント参加報告

World Usability Day とは、ユーザビリティの概念を世界に発信していくことを理念としている組織 HCD-Net のイベントの一つ。2008 年の抱負 に書いてあるようなことを語っていました。この分野の研究は、今のところ欧米が中心ではあるが、今後日本でも積極的に活動していこうと考えており、この度の開催に至った、と話してました。

また、CHI2008(イタリア)とUserFriendly2008(中国)など、世界各地でこんなフォーラムやカンファレンスがありましたよ、と行ってきました&こんなことがありました、な参加報告も行われました。

「高齢者を対象とした駅の案内表示のユーザビリティ調査」 産業技術総合研究所 北島宗雄 先生

SHIBUYA とか TOKYO 駅はもはや攻略本が必要なダンジョンだろ常識的に考えて……に対して JR 東日本と産業技術総合研究所(以下、産総研と表記)がガチに取り組んだ研究成果の発表。渋谷・東京・新宿駅マップはネットでネタにされる程複には面妖な能力を有しているのは皆さんご存知の通り。404 Error - FC2ブログ とか。若者ですらキツイのにお年寄りにとってはもっと難易度高いのは明白。ではどうすればいいのだろう? ってところを人間工学的な方面からアプローチをしてみた、ってのがこの講演の概要。

まず、東京駅のトイレに行きたくなったときを想定して駅の案内表示を見たらどう思う?―コレが言われてみれば確かに分かり辛いw―を切り口に、ナビゲーション支援の局面についての解説があった。ああいった案内表示―ナビゲーション支援―は、目的地への誘導だけでなく、情報・物理空間内への移動支援機能も併せ持っている。つまり、案内表示板は単に状態の途中表示だけじゃない、ということ。このため、初期状態から達成条件にたどりつくためには、いつ誰に何をどんな風に情報を提示するか? という設計が重要になる、とのこと。

Model Human Processor(MHP) の解説。1983 年頃の論文で、人はどのように情報処理を行うか? についてのモデルを論じているもの。すっごく端的に言うと、人間が、何かをしたいと考えて、情報を取得→保持→解釈して、リアルに行動決定するまでには、意外と複雑な認知プロセスを行ってますよ、と言ってるものらしい。

作業記憶と長期記憶の特性。作業記憶は、認知行動を実行するために必要な情報が一時的に格納される場所。マーケティングとかの分野でも出てくる「人間は一度に覚えられるキーワードは 3 つ、気合で 7 つ」ってヤツですな。長期記憶は、知識として定着したもの。重要なのは、作業記憶がキーとなって長期記憶とのマッピングが出来ないと、知識が活用されない、っていう点のようだ。

あと、限定合理性と最大化原理にも話してた。けどまぁ省略。

とゆーような話を踏まえて、高齢者の認知行動特性に基づく駅案内表示の評価。駅案内表示板は、駅側からみると完全で正しく過不足無い情報は提供されている(あのすっごい三次元構造を持った図……例えば 東京メトロ - 渋谷駅構内案内図 とか)。が、高齢者をはじめあのロンダルキアなマップはアンマリ使われてないのが現状らしい*3。で、JR 東日本&産総研が調査して、現在の結論としては公共の案内表示には限界があるよねー個人対応が必要かもねー、になっているようだ。

では実際どんな研究したかというと。認知的加齢が行動に及ぼす影響に着目して認知行動調査を行っている。仮説として、加齢変化に起因する認知機能の変化が行動パターンに変容をもたらすのではないか? を置き、それを実証する、というもの。

まず、認知機能の加齢は脳の加齢に起因する、という事実がある。あと、脳内で加齢の効果が一様に生じるわけでは無く、部位差、個人差がある、という事実もある。元気なじーさまも居れば腹の立つばーさまも出てくる、ということですなw

フィールドワークの詳細は省略。

研究結果として、調査に協力してもらったじーさんばーさんを、どの脳機能が低下しているかの群に分けて色々な調査結果や説を論じていた。

たとえば、遂行機能―与えられた目的を独力でサブタスクに分解し、実行に移せる能力―が衰えている群は、トイレ案内の図が視界に入っていてもそれを正しく目的に結び付けられない行動が観察されたそうだ。半面、作業記憶低下・注意機能―目標物の探索や吊り案内などの情報源を発見する能力―が低下していても、遂行機能が衰えていない場合は、駅の構造的にあの辺にトイレあんじゃね的に推測したりと、自分で自分をナントカカントカマネジメントして、結果としてゴールに辿り付ける、などなどの興味深い観察結果が報告されていた。

つまり、ある機能の低下群によって、案内図を見る・そもそも見ない・見ても必要な情報が獲得できない、などの違いがあるのだろう、と講演者は分析を行っていた。このため、ターゲットモデルに応じた案内誘導の設計が必要になるだろう、と語っていた。

講演者によると、今日の講演で話したことは、人間工学分野の論文で出す予定とのこと。また「サービス工学入門 東京大学出版」という題名の本を、来年二月出版予定でもあるので、俺のウサンクサイレポートを鵜呑みせず論文取り寄せたり、本買ったりして下さいw

……ってか、有料のセッションだからここまで書いちゃって良かったのかなコレw ま、まぁ細部はカナリ省略してるし、出典元書いてるから大丈夫だよね……

「スマートウェイの取り組み -道路から進めるITS-」 国土交通省国土技術政策総合研究所 様

ITS(Inteligent Transport System) について、国土交通省の中の人の話。ITS とは、従来の施策(物理的な方法ってことかな?)だけでは対応しきれない課題を、IT により解決するのを目的としている。たとえば、一つの究極形として人の介在しない自動運転、を挙げていた。ただまぁいきなりそんな遥か遠き理想郷に至れるわけでないので、いくつか段階踏んだり実証実験繰り返して、世界一安全な交通環境を作ることに取り組んでいるようだ。

スマートウェイとは。道路から進める ITS の取り組みの一つ。車載ネットなんかのプラットフォーム作りや、車やドライバー歩行者など多様な利用者との間で様々な情報のやりとりを可能にするナニカ作りをしているらしい。成果の一例として、VICS ―カーナビにリアルタイム道路交通情報を提供するナニカ―や ETC ―有料道路をノンストップで決済するアレ―を挙げていた。

数々の取り組み紹介の中で面白かったのは、首都高四号線参宮橋カーブ。首都高はタダでさえ事故が多いらしい*4んだけど、参宮橋地点は特に危険地帯らしい。ここは直線の先に急カーブがあり、かつカーブの開始点が渋滞の最後尾になることが多く、オマケに遮音壁でブラインドカーブになっているため、その渋滞に気付かず高速で突っ込む事故が多発するとのこと。そこで、その場所で「カーブの向こうに車がいるみたいですよ?」と音声で知らせるシステムを導入したところ事故が激減したそうだ*5

コレって ライト、ついてますか―問題発見の人間学 をリアルにやってる感じだよなぁ、と興味深く聞いていた。本のタイトルにもなってる教訓は、ある人が潜在的に問題意識を持っていることを事前に察知できている場合、情報を沢山与えるよりも適切なタイミングでシンプルな疑問を投げかけることで、その人を問題解決へ向けて自発的に適切な行動を取るよう促すことができる、というもの……だったハズ。アレも車の事例だったよなぁ。

他にも色々な実験成果を公表していて、とても全部は紹介しきれないのだけどw モノの流れを情報の流れを良くすることで変えていこう、って発想がちょくちょく見られたのが面白かったです。

おまけ

このイベントの開催そのものは 「World Usability Day 2008 Japan」開催迫る - 謀 跡地 で知りました。んで、実際会場に行って席座って、まぁこのテの勉強会だと隣の人となんとなく雑談モードに入ることもたまーにあるんだけど、何とその人が件の blog の中の人 id:kirara_397 で、ん? そーいや見たことある顔? アッー! 情シス★オフ で話す側に居ましたよねーそうですよねーになって、既に twitter でお互い follow していて、オマケに二人揃って参加者プレゼンツのクジに当たるというこれは偶然か必然かという事象が発生しました。

なんつーかネットすげぇwww

*1:日本 vs 世界という軸で考えりゃそりゃ相対的に世界の方が盛り上がって見えるだろwww という突っ込みもさもありなんだけどw 会場の平均年齢も高めだったしね

*2:はぶさんの言葉をパクってますw

*3:そういえば VRML な界隈って今どうなってんのかな?

*4:俺車に乗らないんで、今ひとつ実感が沸かないんだよね……

*5:「この先渋滞してるんだからね! べ、べつにドライバーのために言ってるんじゃないんだからね! 日本の交通事故を減らしたいか(ry」とかやればもっと事故が減r……いや『患者』が増えてしまうか……