kagamihogeの日記

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大学の教育力―何を教え、学ぶか

人によって、大学に何を期待しているかはかなり異なるだろうし、大学で何を身に付けられたかと思うか、はもっと異なると思う。今に始まったことではないけど、現代の大学は、全入時代やら大学のレジャーランド化やらと、ボロクソに言われがちではある。ソフトウェア開発の分野に限ってみても、大学で学ぶ価値なんてあるの? と素で言う人は多い。

俺は大学でコンピュータ・サイエンスなるものの片鱗を学び、今でこそ受託開発の分野と大学で学んだことの間に連続性を感じることが出来ている*1 が、どうやら俺はかなり幸運なケースのようだ。大抵の人にとっては、大学で勉強したことと、実際の仕事に関連性を見出すことが出来ない場合が大半なようだ。

大学での俺の恩師はこんなことを言っていたのを思い出す。

「大学では、自分の学習スタイルが身に付けられればそれでいい」

先生曰く、学部生に多量に課されるレポートには究極的には意味が無い、と。それらレポートを書くにあたって、各種文献に当たったり、色々調査・実験・試行したり、その結果や思考の結果を書いて仕上げる……それらを遂行するプロセスが自分なりに確立できればそれでよい、という意味だったのだと、今になって俺は思う。4 年という時間をかけて「学び型」を模索すればよい、そういうことだったのだろう。

ちょっと前置きが長くなったけどw 本書では「大学なんてイラネ」といわれる時代になっているが、じゃあ大学に今求められているのは何なのか? ということを分析している。文庫レベルとしてはかなり良くまとまっていると思うが、対象読者に教育関係者向けを想定しているせいか、文体がかなり堅苦しくてちょっと読みにくい……内容が内容だけに仕方無いのかもしれないのだけど。大学教育に関する読み物として使えなくもないが、そこはちょっと注意が必要かと思われる。

本書の内容について面白いところは、大学そのものの歴史を俯瞰していることにあると思う。ただ―これは筆者も認めているが―紙幅の関係上かなり大雑把なモノらしいので、より詳細な研究が必要な人は参考文献などを当たる必要があるだろう。とはいえ、パンピーが読む分には問題無い水準でまとまっているとは思う。

古代ギリシャから中世ヨーロッパから近代ヨーロッパへの変遷に始まり、独自の進化を遂げたというアメリカ、そして日本はどうだったか、という順序で解説はすすむ。日本の大学教育の歴史は、急速に進む大学の大衆化など様々な要因の上に今日の事態がある、といったことが述べられているが、この辺りは身近な話題なこともあり中々に興味深い内容だった。

それらの歴史を踏まえた上で、筆者はこれから日本の大学はどうなっていくべきか、という論を展開している。俺は大学教育関係者ではないので、この論が妥当なのかどうかはちょっと判らないのだけど……教育というキーワードそのものには少なからず関心があるので、中々面白い論考ではあった。

大学の教育とは何ぞや? に興味のある人は、読めば何かしら得るものはあると思う一冊でした。

大学の教育力―何を教え、学ぶか (ちくま新書)

大学の教育力―何を教え、学ぶか (ちくま新書)

*1:まぁ……そう感じられるようになったのは割と最近のことだったりもするんだけどw