kagamihogeの日記

kagamihogeの日記です。

骨髄バンクドナー体験記録

これは、骨髄移植ドナーの体験記録です。ドナーに選定され、移植手術を行い、術後の状態までを書いています。

事の始まり

ある日、なにやら物々しくデカい封筒が郵便受けに入っていた。何だろな、と思って封筒を見ると「(財)骨髄移植推進在団」の文字。半ば確信に近い思いを抱きながら内容を確認すると「あなたとHLA型が骨髄移植を必要としている患者さんと適合している可能性があります」との記述。

この手紙を受け取ったときの気持ちは、素直に驚きでした。ドナー登録をしたからといって実際に提供する確率はかなり低いことは知っていたので。さらに、登録してからほとんど日が経っていなかったので余計にびっくりしました。

封筒の中身は骨髄移植ドナーや、その意義、対象となる病状などの説明。それと、ドナーとなる意志があるかを尋ねる書類が入っていました。webでそれなりに情報は集めていましたが、一通り説明に目を通し「ドナーになるかどうか?」にはもちろん○をつけて書類をポストへ投函。

ドナー登録に至るまで

元々定期的に献血に行く人間だったので、ドナー登録に興味はありました。ただ、どこで登録すればいいのか知りませんでした。しかし、いつも行く献血ルームで登録受け付けしているとのこと。結局、献血前にドナー登録用の採血と書類に記入をして登録申請後、ドナーカードが郵送されてきて登録完了。

その後、型の一致した患者さんが出たあと親に同意を取り付けました(本当は登録前に許可がいるんだけど)。基本的には好きにしろ、ってスタンスでしたが、母親は心配気味でした。家族の反対で断念、というケースもままあるらしいので、この辺は素直に両親に感謝です。

「よくドナー登録なんてしたねぇ」とは両親だけでなく友人や会社の同僚・上司にも言われました。ドナー体験談を見ると「赤い疑惑」を代表とするドラマを見て、とかが多いけど、世俗に疎い私は間違ってもそれが動機ではない。正直、動機と言えるようなものはアンマリ無く、なんとなくなところが大きいです。

「HLAが適合している患者さんが見つかりました」って封筒が来たとき、日記のネタが出来た、とか考えてたぐらいなので。もちろん、どこかの誰かのために役立てるなら、って意識はあります。それよりも、面白そうな体験ができそうだ、なんて不埒な考えのほうが大きかったです。

骨髄移植とは?

これについては分かりやすい説明をしているサイトが色々あります。web上に情報は充実しているので、ドナー登録するしないを別にして一般的な知識として読むのも面白いと思います。

骨髄移植とは

マトモな説明をしてるサイトはいくらでもあるのでさておき、色々誤解のある骨髄移植。
私自身も誤解してる面がいろいろありました。その中で一番大きいのは、実際に提供するモノに関してでしょう。たぶん「骨髄」なんて物々しい単語のせいだと思います。なんというか、体の一部分をゴッソリ切り取って持っていってしまうイメージじゃないでしょうか。

骨髄というのは骨の真中にある液体状の部分です。ここで血液が造られるわけですが、それが上手く働かないと白血病やらの血液が正しく作られないことに由来する病気になるわけです。そこで、正常に稼動している人から骨髄を貰ってくることになります。とはいえ、両者のHLA型が一致している必要があり、兄弟間で確率1/4、非血縁者間は言うまでも無く低い確率になるので、中々実施できないのです。

その骨髄はドナーの骨のどっから取ってもいいわけですが、一番安定して取れるのが腰の骨だそうです。そこに針を刺して骨髄液を吸い取ることになります。ここが一番誤解されてるとこじゃないでしょうか。骨を抜き取るわけでもなく、ましてや脊髄を剥ぎ取るわけありません。皮膚には多少の傷はつきますが、些細なものです。

あとはリスクの問題。全身麻酔をするなどでドナーに危険はありますが、過剰に恐れられすぎな気がします。知らないから怖い、ってのが源泉だと思いますが、どうでしょう。死亡例や術後障害の件数、その原因と対策や保障、ドナーの体験談、情報は探せばあるんですが、見ようと思わなければ目に付かないですね。

一次検査

ドナーになる意志確認の手紙を出してから数日後。コーディネーターさんから連絡があり、最初の検査日が決まりました。移植に関する様々なやり取りはこの方を介して行うことになります。

そして最初の検査日。指定された場所は大病院なんですが、このテの病院はやたら山奥にあって不便です。往復の交通費は支給されるので、コーディネーターさんに「時間に間に合いそうになかったらタクシーでもいいですよ」とは言われましたが、さすがに気が引けます。

そして最初の検査日。ここであらためて、コーディネーターさんの口から骨髄移植の詳細について説明と、これ以降の手続きを進めるかどうかの意志確認を受けました。骨髄移植を行うには、患者さんの容態や手術に必要な施設や人員の確保など、様々な調整が必要です。そのため、ドナーが受けるにしろ断るにしろ、早めに受けるかどうかの決定はしてほしいようです。ここまで来て引く事態になるとしたら、自分の意志とは無関係な事項(事故や急病)になると思いますけどね。

検査自体は医師の問診と数10mlの採血。昔は検査が2段階ぐらいあったらしいんですが、最近は最初のドナー登録時に行う採血時に、その2段階の試験を済ませてしまっているらしいです。その結果、検査はかなり簡略化したものになっており、今回の検査はドナーの現在の血液状態を見る、といった程度のようです。

ところでこの採血、注射器で行われました。普通では?と思われるかもしれないですが、献血を何回かやってる身としては、数10mlの採血というと献血前に行われる事前検査のときにつかうあの採血キット?(正式名称知らない)を想定していたのです。

なので、腕をプルプル震わせて爺様医者がぶっとい注射器を出してきたときはイヤな予感がしました。イヤな予感とは内出血。30〜1時間かかる献血ではどうしても内出血することがあります(1週間もすれば直りますがね)。ただ、このときの検査採血は数10mlの検査採血。普通では内出血など起こることもないのだが・・・。

こりゃあかん・・・と思ったら案の定内出血。心の中で医者を罵っておきました。

このことをコーディネーターさんに「献血の検査のときに使うキットを使ってはどうか」と聞いたのですが、コストの問題でやってない、と一刀両断。世知辛い・・・。

移植日程決定

一次検査の結果と医師のゴーサインが出たため、ドナーである私が行う次の作業は最終同意になりました。それと前後して、この日を迎える前に手術日程が決まってしまいました。なんか妙にトントン拍子に話が進んでいます。

最初の手紙が届いてからその手術日までわずかに数ヶ月。最終同意をしたものの日程が決まらず半年経ってしまった、とかの体験談を見たことがあったので「ハヤイなぁ」と思いました。

手術は三泊四日。もちろん平日を挟むので会社を休まなければならない。幸いなことに修羅場な期間ではなさそうだったし、上司の許可も出たので一安心。

最終同意

ところでこの最終同意、家族が立ち会う必要があります。私のケースは両親にわざわざ出向いてもらいました。交通費は支給されるものの、この制度は疑問です。未成年の子供ならともかく、二十歳を越えた人間が決めたことになんでイチイチ家族の同意が必要なんだ、と。

さて、最終同意の様子について。参加者はコーディネーターさん、私と両親、一次検査のときにも居た医師、それと立会人の弁護士の計六人。ホントは両親のどちらかでよかったんですが、二人とも出席しました。立会人は、説明が十分に行われているか?同意は本人の意思に基づいているか?を確認するための役割です。とはいえ、その立場は形式的なものなのでしょう。発言・質問はすべてマニュアルに沿ったものである印象を受けました。

内容は、前回とまったく同内容の骨髄移植についての説明。それと、最終同意の確認。これは勿論YES。事務的なものなので淡々と進んでいきました。これにより、骨髄提供者が事故や病気で移植不能にならない限り、提供を断ることは不可能になります。

一番気になったのは医師の態度。寝てたし。自動車免許教習中に助手席で眠りこける最悪な教官を思い出して少しイヤな気分になりました。何回も同じことやってるだろうし、昼下がりだからウツラウツラするのは別にいいんだけどさ。こいつが執刀医だったら断ってたかもしれません。

事前健康診断

手術日まであと約一ヶ月。実際に手術を行う病院で健康診断がありました。内容は、血液・麻酔科医師の問診、採血・採尿、X線、心電図、呼吸器検査(息を全力で吸ったりはいたりするヤツ)で約半日のコースでした。デカい病院なのであちこち回るのは大変でした。コーディネーターさんが居なかったら確実に迷っていたと思われます。

執刀・指揮を行う先生とも初の対面。骨髄移植に何度も立ち会ってるベテランで、医者というよりは町医者な雰囲気の漂うフランクな先生でした。一次検査、最終同意のときにいた医者とは大違いに信頼できそうな人です。医者に限った話じゃないけど、第一印象は重要だとあらためて感じます。

検査は、身体機能は問題無しでした。アゴの骨格も安定してるから手術時の喉への挿管も楽だろう、とお褒め?の言葉をもらいました。

ただ、肝心の血液のほうが骨髄バンクの規定する基準値を微妙に下回る項目がありました。誤差やその日の体調で上下したりするので、先生は特に問題無しとの判断。健康な人間を相手に手術をするので、厳しめの基準値にしていることも関係しているようです。

帰宅したあと下回った項目が気になったので、献血時に送られてくる検査結果と比べてみました。過去の検査結果はすべて保存しているのです。そしたら、過去の結果の平均値内に普通におさまってました。全国平均からすると確かに低いんですが、骨髄バンクの厳しい基準値には少し足りないが、献血する分には問題ない数値だったということでしょう。

あと、くだらない話を一つ。手術に向けて造血を行うため、鉄剤が処方されます。噂には聞いていたし、実際に説明もされたんですが・・・副作用で大便が黒くなります。実際どんなもんかなーと思ってたら、想像以上にグロい色に・・・。確かに黒いんだけど、妙な黒々しさに苦笑しました。

自己血の採取

骨髄採取は、血液を造る骨髄を採取するという点で献血と似ています。ただ、採取量が結構な量になるため、貧血を防ぐために輸血が必要になります。そのため手術前に自分の血液を取っておいて、後で自分に戻すことになります。

骨髄の採取量は患者の体重で決まります。無論、ドナーの体格によって摂取最大量は異なります。やることは献血と同じなので気楽でした。

そういえば、穿刺だけは看護婦ではなく先生でした。さすがというなんというか、めちゃめちゃ上手でした。上手い人のはホント全然痛くないんですよね。血液専門の先生なのに針刺すのが下手、ってのはあり得ないとは思うけど。

入院一日目

色々検査があるとのことで、朝から病院へ向かう。この日はヒマでした。

雑多なトピックをいくつか。

  • 病院デカすぎ。迷いそうになる。RPGで病院が舞台になるけどさもありなん。
  • 男性ストッキング(手術時に血栓を防ぐ)3150円、T字帯(手術用の衣下着?みたいなもの)100円。お金は多少多めに持っていったほうがいい。あとでバンクに費用請求できるけど。
  • 意外と病人食が美味。

入院二日目(手術日)

緊張して眠れないということもなく、普通に起床。09:30ごろにカートに載せられて手術室へ。

そしてマスクをかけられ、全身麻酔がかけられる。手の甲にはしってるブッとい血管に管がさされ、看護婦さんの「すぐ眠くなりますよー」の「すよ」の辺りで意識がなくなる。この間約2秒。

話には聞いていたが、起きたら手術が終わっていた。何の前触れもなく意識がなくなる全身麻酔ってすごいなぁ・・・と思わずにはいられません。

目覚めは12:00ごろ。ただ、最初は意識が朦朧として、生返事が出来るくらい。酸素マスクが息苦しかったのを覚えている。眠ったり起きたりを繰り返すうち、だんだん意識がハッキリしてくる。すると、導尿カテーテルがむずがゆくなり、次第に腰の痛みがハッキリしてくる。

15:00ごろ。導尿カテーテルが外される。噂には聞いていたが、思ったような痛みではなかった。説明が難しいのだが、いまだかつてない排尿感というべきか。男性限定かつ下品な話で申し訳ないが、小尿を我慢し続けて一気に出すときの痛みに似ている。一気に出すときよりも管を圧迫する堅い棒状の何かが、ぞるっと通過する感覚。言葉ではやはり表現し難いです。

マスクを外したころから、喉の痛みが強くなる。手術時に喉に挿管するので致し方ない話です。マスク外してしばらくは喉アメをなめっぱなしでした。お茶などより喉がスカッーとするアメのほうが手放せません。

カテーテルを外した後、腰は痛かったもののすぐに動くことは出来ました。とはいうものの起き上がってるのは辛いので寝っぱなしでしたが。

17:00ごろ。点滴をしているせいらしいんですが、尿意が半端じゃなく短い間隔でやってきます。ヒドイときは30分に1回は行ってたんじゃなかろうか・・・。個室じゃなかったら死んでただろうなぁ。しかも、尿意はあるくせに大した量が出ない。点滴外すまではコレにずっっと苦しめられることに。

20:00ごろ。微熱が出る。体がだるいのと尿意のおかげで中々眠れない夜を送ることに・・・。

入院三日目

中々眠れぬまま朝を迎える。売店まで買い物にいったりと歩行に問題はないが、腰はまだ痛く、喉の痛みも若干残る。

それよりも辛かったのは、頭と体がボーッとして何もする気が起きなかったこと。

医者曰く「(全身麻酔の)薬はそう簡単には抜けなくてボンヤリする。(腰に穴あけるため)小さな骨折だから熱が出たりもする」とのこと。暇潰し用に何冊か本持っていったんですが、全く読めませんでした。読もうとしても全く頭に入ってこないというか、理解しようとする回路が働かないというか。まるで病人のように(病人だけど)日がな一日テレビ見て過ごしてました。

入院四日目(退院)

発熱も収まり、手術部位の出血も見られず。というわけで順調に退院することができました。昼頃には自宅に戻っていたかと思います。

そういやぁ「帰りのバスに揺られて腰が痛かった」という体験記を見かけたことがあるけど、そんなことはなかったっけなぁ俺はまだ若い

予後

一週間後の予後診断でも特に異常なし。これにてドナー提供一連のプロセスは終了となりました。

腰の痛みはしばらく続きましたが、今は傷跡ともに消えました。デスクワークゆえの腰痛はあるけどさ・・・。

提供対象者からの手紙

提供後しばらくして、患者の方から感謝の手紙が送られてきました。しかし、読んだあと何の感慨も沸きませんでした。

内容が「ありがとう御座います」以上のことは書いてない、というか触れることができないからです。何故ならバンクの検閲のために。また、それが良くわかるように、開封された封筒が封筒に入れられているのが気に食わないです。

よって、返事を書くことは考えてないです。冷たいなぁ、と自分でも思うけど、返信する気が起きないのに書いてもしょーもないし。

「骨髄ドナーは究極のボランティア」なんてのをどこかで聞いたことがあるけど、これは皮肉の意を多分に含んでいると思う。

全身麻酔は結構キツイわ、有給食われるわ、おまけに感謝の手紙は検閲済み。見返りが欲しくてドナー登録するわけではないが、旨みがなくては寄り付く人間が少ないのは当然だろう。つまりはドナーの質の向上を・・・なんて発言はアホウとしか言いようがない。

よって、ドナー登録は慎重に考えた方がいい。

ドナー登録に協力を?

割と気軽に登録しちゃって実際に移植までいってしまった私が言うのもなんですが、ちゃんと考えて登録したほうがいいです。自分のためにも周囲のためにも。そして何より患者さんのためにも。

まず、実生活には少なからず負担が出ます。それなりの日数仕事を休む必要があります。職種によっては休めない時期などもあるでしょうから考え所です。また、提供手術によって何かしらの障害、非常に低い確率ではあるものの死亡もありえます。

これらを踏まえて登録しない、というのは正しい選択だと思います。たとえ、自分とHLA型が一致する患者さんがいたとしても。

登録後、一致したドナーが見つかると患者はそれに賭けることになります。移植前処置を行うと骨髄移植は中止不能になるので、文字通り命を賭けることになります。この段階に至ったあと、ドナーが断れば悲惨な結果が待つのみです。ドナーが中途半端な気持ちでいて、土壇場で断れば死ぬのは患者です。

つまり、ドナー登録する前に、周囲を巻き込んでまで見知らぬ誰かのために生活を犠牲にする覚悟があるか、自身の体に障害が残るリスクを背負えるか、を考えるべきだ、と私は考えます。非情ではありますが、優先されるべきは健康なドナーの体です。

ただまぁ、その・・・なんだ。理屈じゃそうなんだが、それじゃなんというか人として悲しいというか。見知らぬ誰かのためとはいえ、役立てることがあるならやって上げても罰は当たるまい、とも思いますけどね。

もうちょっと言うと、日本人は先進国と言われるクセして精神も制度も未熟だと思います。世界のドナー登録者数を見れば分かる通り、日本は本当に登録者数が少ないです。社会基盤や教育の違いなど色々な要因があるのだと思います。ただ、それより何より、自分とその狭い身内以外は知らん振りな村社会な日本人気質が影響してるのではないでしょうか。

生半可な知識であえて言ってしまうけど、一度決めた制度をどんなに社会状況が変化しようと医療体制に変革が訪れようと、変えることを検討しない体制はやはりどこかおかしい。悪い意味で慎重過ぎる部分は彼らにはあると思います。

最後に

日本の骨髄バンクの規定では、提供は一生の内に2度可能。医者の話では、一致する人はやや高い確率で再度一致しやすいのことなので、もう一度話がくる可能性は高い。

もう一度やりますか?と言われたら、おそらく「はい」と答えると思う。あれだけ辛い目にあっておいてなんでまた・・・と自分でも思わないでもないけど、おそらくやると思う。その理由は説明しがたいです。なんとなく、というか・・・人一人の命が救えるらしいなら、まぁいいか、というか。割とテキトーな感情はやっぱり説明できないです。

まーボランティアなんてそんなもんじゃないでしょうか?とか言ったらマジメに取り組んでる人たちに失礼か・・・。

批判的なこともたくさん書きましたが、ドナーは貴重な体験だったの一言に尽きます。

おわり。